水素キャリアの生き残る道

 パリ協定での目的を達成するために日本政府は水素基本戦略を201712月に承認した。この戦略を社会に実装するためには大容量の水素用途が必要であり、その中でガスタービンの利用は大容量用途であり、有望である。実際、神戸のポートアイランドでは1MWガスタービンを有する熱電供給設備を用いて、地域レベルで電気、熱、水素それぞれのエネルギー利用を目指す実証実験を行った。

 このような水素社会を目指す取り組みに対して懐疑的な見方は根強い。それは、水素社会はシステム全体が原理的に低効率であるためである。水素含めた、エネルギーは、一般に、製造、貯蔵・移送、利活用の3段階で考えることが多い。この3段階について、水素エネルギーシステムは電気直接活用と比較して、電気エネルギーを化学エネルギーに変換し、それをまた電気エネルギーに戻す過程がある分だけエネルギーをロスする。実際、モビリティの分野では2020年のFCV40,000台の社会実装に対して、201712月時点で2,000に留まっている。さらに、ダイムラー、フォード、日産・ルノーFCVの商用化を凍結した。

 それでも水素キャリアは社会に実装する可能性を秘めている。それは大規模貯蔵が可能であり、新たなインフラ投資を抑えられるためである。実際、アンモニアは年間100tを超える生産量である。一方、全固体電池にはLaTiZrなど希少な元素を用いることも多く、エネルギーという社会インフラを直接に貯蔵することは容易ではない。

 以上のように、水素社会は当初思い描いていた、FCV水素ステーションという看板ではない形で社会実装を目指すことになりそうである。その中でも水素発電やエネファームなど、定置型、大規模型の用途は有望であり、少なくとも早期に社会実装される可能性がある。