化学技術の方向性 化学と工業2019−02

  学術倫理が揺らいでいるらしい。発端は2018年の晩秋に遺伝子編集による人間が誕生した、とニュースの大々的な広まりである。このニュースの真意は明らかではないが、世界中の学者から学術倫理および規範に違反するとして批判されている。この問題は人間がもつ時に規範を超える力ももつ好奇心の負の側面と考える。一方、日本ではSoicety5.0と呼ばれるデジタルとリアルの融合を志向して社会が築かれようとしている。しかし、これらの政策において人は一様として扱われており、個が反映されていない。これでは多様な価値観を反映できず、社会は不安定化する可能性が高まる。

   筆者のいう社会構造への個の反映には賛成である。なぜなら、今は昔と比べて、個人が社会へ情報発信する能力が飛躍的に大きくなっており、個人の嗜好は反映され易いからである。しかし、どうしても考えなければならないことが1つある。それはエネルギーである。なぜなら、多様化する社会は冗長化し、分散化し、効率が悪いからである。このエネルギー問題解決のポイントは再生可能エネルギーであり、特にエネルギーキャリアの充実である。このエネルギーキャリアの充実に関して水素やアンモニアなどのシンプルで安価な水素化合物は有望であり、日本は基礎研究から社会実装まで世界の先端を走っている。ロードマップからは少し遅れ気味ではあるが、来年のオリンピック、その後へと広義の水素社会を築いていくことは大切である。